幸せであるように2007年04月25日 00時46分21秒

 朝、いつもの電車に乗り遅れそうになり、小走りで駅のホームに駆け上がる。しかし電車のドアは目の前で閉まり、銀色の車体は僕を残したままそ知らぬ顔で加速を始めた。僕はそれほど乗りたかったわけでもないふうを、誰にということもなくアピールしながら、ホームの白線に沿って歩を進めた。

 ふと前から顔中を真っ白に塗りたくった、メガネをかけて帽子を被ったおばさんが歩いてきた。そしてヌッと僕の目の前に顔を突き出すと、何も言わないまま顔をしかめてプイと目を逸らし、ひどい白粉の匂いを残して僕の横を通り過ぎていった。ネルシャツをズボンの中に入れてデイパックを背負い、大声で構内アナウンスを真似しながら走り回っている坊主頭の若い男が、僕を捕まえて「危険ですから白線の後ろにお下がりください!」と叫んだ。

 次の電車がホームに滑り込んできた。僕は比較的空いている車両を見つけて乗り込んだが、あっという間にすし詰め状態になった。後ろから新聞で頭を小突かれながら、前にいる女の子の体に触れないよう手の位置に注意する。右側の若い男特有の体臭に鼻が曲がりそうになりながら、メールを打っている左側のOLのヘッドホンから聴こえるキマリすぎのシンバルに頭の中を掻き回された。

 僕の体がくるくると回転したかと思うと、目的の駅に降り立っていた。かなりの乗客が降りたはずだが、それを上回る数の乗客がホームに溢れていた。次々と走り込んできては電車に群がり、駅員に車内に押し込まれながらもがいている人たち。それでも電車は皆んなの幸せを乗せて走る。皆んなが皆んな幸せであるように、せめて今日一日くらいは、と僕は心で祈りながら、エスカレーターに並ぶ列を横目に階段を上り始めた。