KLIMAX DS2009年04月02日 12時44分38秒

昨年の10月くらいですかね、買っちゃいました。LINNのKLIMAX DSです。

僕は部屋では自分のオーディオを聴いていますが、外出時は人並みにiPodを持って出かけます。そうすると別物であることは承知の上で自然に音を比較してしまうことがありますが、オーディオ的な質はともかくとして、iPodのデジタル音源ならではの音の良さというのは常々感じていました。

時に僕のオーディオシステムもCDプレーヤの買い換えを検討するべき時期にきていて色々と物色はしていたんですね。例えばMeridianのReferenceとかMetronomeなんかいいかななんて思ってました。そうしたところ昨年に入ってからですかね、このKLIMAX DSを雑誌だったかLINNのサイトだったかで目にして僕はひっくり返ってしまいました。まさかLINNがこんなコンセプトの製品を大真面目に作るなんて思ってもみなかったからです。怖いくらい思い切りのいい構成と、モノとしてのオーラぷんぷんのその存在感にすっかりやられてしまい、もうこれしか考えられなくなりました。正直CD12の後継機が発売されればかなり有力な候補だっただけに、このデジタルストリームを再生するフラッグシッププレーヤというのはかなり衝撃的で魅力的でしたね。

しかし何しろ高額ですから一時の高揚感でおいそれと購入できるわけもありません。昨年の夏くらいになってようやく購入の目処が立ったものの、僕としては例のないほど慎重に準備を進めました。というのもこれは買ってきてラックに放り込んで繋いだらはい終わり、というわけにはいかない代物で、それ以前のネットワーク環境の構築がキモだということが明白だったからです。ですから購入前にLINN DSに相応しい環境が作れるかどうかじっくり検討する必要がありました。

まずはDSのストリーミングに必要な機材(NAS,スイッチ,LANケーブル)を買い揃えます。ここで難しいのは’音がいいもの’という今までこの手のネットワーク機器に求めることのなかった基準で物を選ばなければならないところです。
最終的にはNASはバッファローのLS-WS1.0TGL/R1をバックアップ用も含めて2台。メインNASにはUPSも。NASはDSの近くに配置したいので2.5"HDDの静音性を含めた機械的エネルギーの少なさはストリーミングの品質にも貢献するはずですね。もちろんシリコンディスクが理想なんでしょうけど。スイッチは仕事では馴染みのあるアライドテレシスを。がっちりしたスチールの筐体はノイズの影響も少なそうです。LANケーブルはサンワサプライで売っているCAT5eの単線STP(+ノイズビート)を選びました。この線材は(アセンブルも?)東日京三電線製で音質にも期待が持てます。
接続はNAS→スイッチ→スイッチ→DSとして、DSと同じスイッチにNASが直接乗り込まないようにしています。それ以外にはNAS側スイッチにリッピング用PCを有線で、コントロール用PCをルータ経由で無線で接続しています。スイッチ間は本当は光接続とかでアイソレートしたほうがいいんでしょうけどね。DS購入後、近接無線で繋いでみたりもしましたが、DS側のポートが100Mのせいかコントロール用PC上のLinnGUIのパフォーマンスが悪くなったので止めました。スイッチ2台の電源は他のオーディオ機器と同じく絶縁トランス経由で供給しています。コントロール用PCとしてはASUS 4G-Xを新規に購入しました。LinnGUI専用機ですからこれで充分でしょう。HDDレスですから静かなんですが手元に置いた時少しファンの音が気になるかな。

さて、今度は音源データの準備です。やはりメインは手持ちのCDをリッピングしたものになるわけですから、リッピング用ソフトを試さなくてはいけません。LINNのサイトで推奨されているRipStation DS/Exact Audio Copy/MediaMonkeyからExact Audio Copyを選びました。ドライブは手持ちのPLEXTOR PX-716Aを使い、とりあえずFLACフォーマットで手近にあった数百枚のCDを数ヶ月かけてリッピングしました。

環境的におおよその目処が立った頃KLIMAX DSを発注し、約三週間後このリッピング作業の最中にKLIMAX DSの納品を迎えることになりました。当日は販売店の方とLINNの方が来てセッティングしてくれました。もちろん準備は万端で、DSをラックに入れて繋ぐだけであっさりとその第一声を聴くことができました。確かその時はChick CoreaのAkoustic BandとAndreas Vollenweiderを聴いたと思います。
そうして聴くKLIMAX DSの音は透明感、エネルギー感、解像度の高い堂々たる響きです。音場感、定位などはもちろんのこと、音像の前後の配置、低域の形や動きなども目に見えるようです。

ただやはりこういうものも結果より過程の方が楽しいものですからまた色々とやっちゃうんでしょうね。それにしても高いおもちゃだなぁ。

Beginning of the End2009年04月02日 14時14分51秒

 ふと空を見上げると、そこにはいつもと変わらぬ平板な青い空があった。それは頭上から三メートルくらいにあるようにも見えるし、三光年離れた彼方に浮かんでいるようにも見えた。僕の目に映る全てのものははるか遠くの一点を目指して慌しく収束を始めていて、足元を掠めるようにしてその後を双子の猫が追いかけていった。似ても似つかぬ双子だったがとても仲が良さそうだった。時々立ち止まってはお互いの体を舐め合っている。今日はとても大切な日だったはずだが、他のほとんどの一日と同じようにそれほど意味のない日だったような気もしてきた。
 忙しげにすれ違う人たちはまるで僕が透明人間にでもなったように僕の体を無遠慮にすり抜けていく。静かな音が重い風を伴って背後に広がり、振り向くと双子の猫は潰れて地面にはり付いていた。
 目の前には十年来変わらぬ妻の顔があった。僕に向けられた微笑は何かにひどく絶望しているように(あるいは何かに怯えているように)も見えた。僕は妻を慰めようとして妻の顔を見るが、どうしても顔がわからない。妻が何かを喋っていたが、それはもう意味のある言葉として僕の耳には届かなかった。僕は妻のために買ってきた指輪を箱から取り出して妻の指に嵌めようとしたが、指を捜すきっかけすらつかめず虚ろに空を切った。
 どうやらここで僕は終わり、そしてここから君が――少なくとも僕でない何かが――始まる。僕の後ろには'何もない'空間が永遠に拡がっていて、そこには潰れた猫がひっそりと転がっているだけだった。

2009年04月02日 14時20分42秒

 乾いた雪が窓を打つ――ちょうどそんな日に君は僕の部屋に居合わせた。

 え、雪の女神を知ってるかだって? さあ、今年の冬はまだ君以外にはそれらしい人に会ってないけどな。まあそんなことどうだっていいじゃない。今日はゆっくりしていけるんでしょ? 僕と一緒にいまや貴重なこの極寒の夜を楽しもうよ。それにしてもほんとに寒いよね。もっとこっちに寄ったら? ん? ああ、ユミのこと? うん、夏の間付き合ってたけど。でも何でユミのこと知ってるの? 勘って……恐ろしい勘だね。もちろんもう何とも思ってないさ。情熱的なところもあったけど、随分振り回されたからね。もうこりごりって感じ。やっぱり君みたいなクールな落ち着きがないとね、だめだよ。え、その前? ああ、もう全然、ってことはないけど、つまんない女ばっかりなんであんまり覚えてないんだよね。もう僕のことばっかり聞いてないでさ、君の話も聞かせてよ。これまでの経験とかさ。あ、僕そういうの全然気にならないほうだから。大丈夫だよ。安心してべらべら喋っちゃって。――本当? それ。僕が初めてなの? またまたそんな、そんなに可愛いのに? 信じらんないなあ。えっ、てことはその、経験的に言うと'まだ'ということに? ああ、そんな、神様、ご無体な、いえ感謝します、ありがとう。いやいやそんなことで舞い上がるような僕じゃないよ。大丈夫。安心して。よっしゃ、そういうことならそれなりにということでね。がんばらなきゃね。
 彼女がトイレに行っている間に僕は残りのコンドームを数えていた。
 ひい……ふう……みい……、ちょっと足んないかな。まあわかんないようにやっちゃえば何とかなるか。この寒いのに買いに出るわけにもいかないしな。
 気配に振り返ると彼女が立っていた。彼女の体は白くて艶やかな服なのか皮膚なのかよくわからないもので覆われていて、手を拡げたその先はひらひらと天井から折り返していた。彼女の白い髪から覗く赤い瞳が光った瞬間、僕の足元はぱっくりと割れて、一面に赤い溶岩が渦巻く地獄のような空間が拡がった。僕の体は叫び声と一緒にゆっくりとその中へ落ちてゆき、やがて雪が解けるように跡形もなく消えていった。

騒音2009年04月02日 14時26分10秒

 猫が迷惑そうな顔をして天井を見上げている。やれやれ、またいつものやつだ。上の階から何やら床をドンドン踏み鳴らして走り回る音が聞こえてくる。小さな子供でもいるんだろうと思っていたが、変わらぬままもう七年以上が経っていた。
妻は「もう我慢できない。何とかしてよ」と言う。僕は「いやいや、集合住宅である限りある程度は仕方ないんだよ。僕たちだって下の家に同じくらいの迷惑をかけているかも知れないだろ。子供はいないけど猫たちが昼夜を問わず走り回ってるし」と言ってなだめる。
 妻だって直接苦情を言いに行ったりはしないだろうが、かなり苛立っている様子だ。もちろん文句を言ったところで何とかなる可能性はかなり低いだろうし、下手をすれば逆効果になりかねない。こういったところではお互いに関わり過ぎないことが美徳なのだ。
 こういうのはどうだろう。田舎のお土産でもいいし虎屋の羊羹でもいい。手土産を携え上の家を訪ねてこう言うのだ。
「ウチはいつもうるさくしてますので、こちらにご迷惑をおかけしてないか気になっていたんですよ。猫も走り回りますし、深夜までステレオを大きな音で聴いたりしてますのでね。一度こうやってお邪魔してお詫びを申し上げたかったんですよ。こういうことは相身互いですからね。いえ、ご迷惑さえおかけしてなければいいんですけども」
 ちょっと馬鹿げてるかな。悪くないような気もしたんだけど。

 ある日帰宅してエレベーターを待っていると、上の階から家族連れが乗り込んできた(一階にモニターがあるのだ)。家族連れはエレベーターから出てくるとそこで待っていた僕と軽く挨拶を交わし、エレベーターの中にいた時と同じ密度を保ちながら連れ立って外に出ていった。僕はふと思い立ち、その家族連れを追ってみることにした。別に今見た家族が件の上の階の住人たちであるとは限らないのだが。
 家族連れはマンションの正面玄関を出ると右側に回り、ゴミ捨て場に寄るとそこで何かを捨てたようだった。そしてさらにぐるりと回り、大きな通りに出た。僕は付かず離れず家族連れの後を追った。髭もじゃの大きな顔をした旦那さんと小柄な奥さん、品のよさそうなおばあちゃんと五歳くらいの男の子だ。子供は足を前後に動かさず横に少し拡げてそのまま前にジャンプして着地する、という方法のみで前に進んでいた。要するに体を硬直させピョンピョン飛び跳ねるようにして(いや、飛び跳ねて)歩いていたのだ。
 これはひょっとすると、と思いながら彼らの会話に耳をそばだてた。どうやらこれから食事をしてからカラオケにでも行くらしい。店まで付いていくかどうかで少し悩んでいた時、目の前の彼らは突然スッと広くて暗い場所に消えていった。通り過ぎて振り返ると、そこは有料駐車場だった。

電話2009年04月02日 14時26分52秒

 あなたの目の前の電話が鳴る。もちろんそれは唐突に、そしておそらくあなたはその音にも決して好ましい感情を抱くことはないだろう。なぜならそれはおよそ未来を感じさせない絶望的な音色で鳴るからだ。決して短いとはいえない電話の歴史が、如何に不快な呼び出し音を鳴らさないかという命題とともに長い道のりを歩んできたにもかかわらず、あなたは、いや私たちは相変わらず逆撫でられ続けて赤くただれたこの気分にしゅっちゅう向き合わなければならないのだ。
 しかしそれでもあなたは電話に出ようとする。わずかばかりの電話の進歩の一つに留守番電話機能がある――これは本来活躍するべき留守中よりも家にいながらにして活用するほうがよほど役に立つ――が、これを利用する手だってあるのに。いや、やはりあなたは一旦留守番電話に電話を取らせたようだ。相手があなたの名前を呼ぶ。
「――いないのか?」
 その声を確認してあなたは受話器を取る。
「なんだ、いるんじゃないか。どうしたんだよ」
「――私、明日の朝、堕ろすわ」
「何だって? どういうことだよ」
「愛してるの」
「もちろん僕もさ。でもどうして」
「帰るのは来週になりそう?」
「ああ、こっちはかなり天候が悪くてね」
「――主人が帰ってくるの。生きていたのよ」
「――そうなのか?」
「だからもう連絡しないで。切るわね」
「だからって、そんなの納得できないよ。待ってくれ――」
 あなたは受話器をそっと置き、しばらくそれをゆっくりとさすっていた。そしてベッドに倒れ込み、目を見開いたまま、きしむ天井が落ちてこないように祈った。

ある再会2009年04月02日 14時38分00秒

 僕は駅前の薬局を出たところで立ち止まった。手には今買ったばかりのビオフェルミンが入った袋を抱えたまま。下痢がなかなか治らない家の猫に飲ませようと思って買ったものだ。
 左に向かって歩き出そうとしたところを後ろから誰かに呼び止められた。およそ僕を街中で呼び止める人など今まで会ったことがないのでかなり驚いたが、名前を呼ばれたのだからどうやら間違いではなさそうだ(僕の名前は結構珍しい)。僕は確信と諦めを持ってゆっくりと振り返った。
 そこには確かに見覚えのある顔が立っていた。半年ほど前まで通っていたカルチャーセンターの俳句教室で知り合った男だ。一年くらい通っていたのだが次第に興味が薄れてきて足が遠のいてしまっていたのだ。今では俳句を詠んだりすることもまったくなくなっていたが、それまでの習慣で俳句の月刊誌だけはまだ何となく買っている。しかしいったい僕が何を求めて俳句を始めたのかなどということはもうどうでもよくて、今問題にするべきはその男の風体だろう。
 男は僕よりも少し若くて、細身で背が高かった。頭はスキンヘッドでバッタのような顔をしていて、何も食べていない時でも口をもぐもぐと動かしていた。今僕の目の前にいる男は確かに少し口を動かしているようにも見えるが、その頭には安手の金髪のカツラをかぶり、ロリータ風のフリフリがついたピンク色のミニのワンピースを着ていた。もちろんその毛だらけの足には折り返し付きの白いソックスに先の丸い赤いエナメルの靴を履いている。男は僕を見ながら少し首を傾げてしなを作った。
「――どうも――お久しぶり」
 何だか事情も複雑そうだしこんな格好をした男と立ち話をする勇気も無かったので、僕は彼をそこからなるべく人目につかない路地裏にある小さなカフェに連れて行った。
 その店には僕も何度か入ったことがある。僕と同じくらいのマスターが一人でやっていて、テーブルもないカウンターだけのシンプルな内装と極端に品数の少ないシンプルなメニューが特徴だ。よほどコーヒーに自信があるらしくメニューはオリジナルブレンドとお勧めストレートの二種類だけだ。季節によってそれにアイスコーヒーが加わるくらいであとは何もなし。シンプルだ。
 今日のストレートのグァテマラを二つ注文すると、僕たちは並んでカウンターに向かって腰掛けた。コーヒーが出てくるまで男はそわそわと落ち着かない様子だった。金色の髪の毛を指でくるくるともてあそんでから、ネイルがはがれていないか入念にチェックした。
 しばらくすると僕たちの目の前に二つのコースターが置かれて、その上に二つのマグカップが乗せられた。マスターは終始無言だ。男はカップの口をのぞき込むようにしてから、キョロキョロとカウンターに何かを探し始めた。僕は気がついてマスターに目配せをした。マスターはうなずきもせずカウンターの奥に消えると、砂糖とミルクとスプーンが乗った小さな皿をうやうやしく持って現れ、それを男の目の前にやはり何も言わずに置いた。男はペコリと会釈すると砂糖とミルクを次々に手に取り、カップからコーヒーがあふれ出すくらいたっぷりと入れた。
「びっくりしたでしょ。私のこの格好」
 コーヒーを一口すすり、おそらくはその熱さに顔をしかめながら男は言った。
「うん、でも、そのせいかな、元気そうだ」
 男はにっこりと笑った。
「ありがとう」
「俳句はまだやってるの?」
「ううん、あなたが来なくなってから三ヶ月くらいかしら。私もやめちゃった。まあもともとそんなに向いてるわけじゃないし、今思えば何であんなことやってたのかしらね。でもあなたはやめることなんかなかったのに。最後の発表会でのあなたの作品なんてすごくよかったわ」
「さあ何でだろうね。何か別の新しい光に誘われて森を抜け出したのはいいけどまだ明確な答えを持ち帰れないで彷徨ってる、って感じかな。でも君はその何かを見つけたみたいで本当にうらやましいよ」
「あら、まだわからないわよ。これが私の本当の姿なのかどうか、私にはもちろん誰にもわかりはしないわ。私もまだまだ森には帰らないつもりよ」
 男はそう言ってカップに残っている冷めた最後のコーヒーをぐいっと飲み干した。
 帰り際店を出ようとした僕たちにマスターが、よかったらどうそ、と僕たちが使っていたコースターをくれた。店のロゴが印刷された樹脂製のステッカーになっていて、僕は知らなかったが記念品として誰にでもくれるのだという。
 もう一度駅に戻ってから、僕は男と別れた。その格好のまま電車で帰るらしい。ふと確か彼には奥さんも子供もいたことを思い出した。
 家路の途中で近くの音楽専門学校に通う学生の集団とすれ違った。一際背の高い金髪、ピアス、革ジャンの学生が墓碑のように背中に背負ったギターケースの後ろに、さっきもらったコースターのステッカーが貼ってあった。
 僕は揺れながら次第に小さくなっていくそのステッカーを眺めながら、ポケットのiPodのボリュームを手加減もせずぐいっと上げた。

冷たい壁に横たわる2009年04月02日 14時38分46秒

そうさ、俺だってこんな死に方したかったわけじゃない。そりゃそうだろ。どうせ死ぬならやっぱり柔らかいベッドの上で俺を愛する家族に見守られながら、俺の一生に転がっていた全てのきれいなものをかき集めて胸に抱き、痛みもなく安らかに死んでいきたいじゃないか。そりゃそんな贅沢言ってられない立場だってのはわかるよ。でもそりゃあくまで’ある種’の価値観の上でのことだろ。もちろん俺はそんなもの認めちゃいないし、俺に言わせりゃ理不尽極まりないってもんさ。ただ俺はあの娘と楽しいことをしたかっただけじゃないか。なのに残忍極まりない鬼畜の所業とか言われてさ。あの子だって結構楽しんでたと思うんだけどな。まあ確かに幼すぎたから俺を受け入れるような余裕はなかったかもな。すぐに動かなくなっちゃったし。それを根掘り葉掘り嗅ぎ回ってさ、俺を引きずり出さなくてもいいじゃない。挙げ句裁判なんて面倒くさいものに引っ張り出されて、娘の遺族とか鬱陶しい奴らに会わせてさ。もう死にたいよ、って、死んでるか、はは。
え、自業自得だって? はは、お前さん、そりゃずいぶんと偏ったものの言いようだね。俺だけが悪いのか? 俺は被害者じゃないのか? お前さんはどうなんだい? そんなことは朧気な明日にすがって生きていくしかないやつの戯言だね。俺を見な。俺はここで確かな時間を刻んでいた。もちろん限られちゃいるがな。そしてだんだんと空気の密度が高くなっていくんだ。頭を何かに押さえつけられているみたいに息苦しくなってくるのさ。いよいよ残りわずかになってきたらしいある日のことだ。見慣れない看守が俺を小窓から呼び寄せた。こいつがいかれてやがった(ひょっとしてあの娘の親族か?)。いきなり拳銃を抜くと俺の胸に全弾を打ち込みやがった。俺は奥の壁まで吹っ飛ばされて壁に張り付いたまま立っていた。体が焼けるように熱いのに、壁は恐ろしく冷たいんだ。そしてぐるりと部屋が回転し、俺は冷たい壁に横たわる。看守の足音が次第に小さくなっていき、天井がだんだん低くなってきた。俺は待ってくれ、と呟いたが声にはならなかった。

桜餅2009年04月02日 14時42分51秒

 僕は左手に5kgの米袋を、右手に24ロールのトイレットペーパーをぶら下げて俯いたまま黙って歩いていた。最近思い付きでおにぎり弁当を持って行くようにしているので米の減りが早くなったのと、猫と僕が下痢気味なのでトイレットペーパーもたくさん使うからしょうがないんだ、と自分に言い聞かせながら。
「ちょっと待ってよ」
 妻が後ろから咎めるように言う。
「勝手にどんどん行かないで。少しはペースを合わせなさいよ」
 と、これもうんざりするような量の買い物を両手に持った妻が、その袋を振り回すようにして体をくねらせている。
 あのさ、これ重いんだよ。だから一刻も早く家に帰りたいわけ。そんなこといちいち言わせんなよ。
「あー、着いたー。重かったー」
 ドサドサと荷物を玄関におろして人心地ついた。
「もー、そんなとこ置かないでちゃんと運んでよー」
 もう僕は猫の相手で忙しいんだ。そんなことしてる暇ないんだよ。勝手にやってくれ。どうだ、大丈夫か? お腹ゴロゴロしてないか? うん?
 テレビでは花粉の飛散量が例年を上回る予想で、その割には最近にない寒さが続いていると告げていた。僕はしばらく猫の頭を撫でながら薄曇りの空を窓越しに眺めていた。
 妻が突然僕の目の前に何かを差し出した。それはいつの間に買ったのか、透明なパックの中に並んだ桜餅だった。
「何となく食べたくて」という妻の言葉にうなずきながらダイニングテーブルにつき、僕が葉を付けたまま三つ、妻が葉を取って二つ食べた。ふと僕は桜餅が好きだった祖母の顔を思い浮かべた。思わず駆け出したくなるような笑顔だった。
 桜餅を食べ終わると、僕たちは黙って祖母の七回忌のための帰省の準備を始めた。

iMac2009年04月05日 23時59分56秒

昨年から今年にかけてどうもメインPCの調子が悪かった(電源部からの異音と振動)ので、もう三、四年使ったことだしそろそろ買い換えようと思い、しばらく前から次はこれと決めていたiMacを一月に購入しました。iBook G4に続いて二台目のMacです。
今となってはすでに旧モデル(Early 2008)ですが、3.06GHz/1GB/500GB/24"/GeForce8800GSのCTOモデルです。2GBメモリ×2+DSP版WinXPを同時に購入して4GBメモリでBootCampのWinXPをメインの環境にしています。もちろんOS Xも使えますがやはりWindowsベースの環境で作業することが多いので。VMWare Fusionも一応買いましたがほとんどBootCampを使います。
Windowsメインなら素直にWindowsマシンを買うのが合理的なんでしょうが、その合理性ゆえユーザの自我の介入さえ拒絶するようなプロダクションにはこのところ辟易していました。そうした中Intel CPUの採用やBootCampのサポートなどで次第にWindowsマシンとしての可能性と魅力を身につけてきていたMacに注目するようになりました。今回このあたりを検証してみたいというか、とにかくこの世界で最も美しいWindowsマシンを使ってみたかったというのが正直なところでした。
実際使ってみると予想以上にWindowsマシンとしての安定性は高く、動作音は静かで非常に快適な環境を手に入れることができて大変満足しています。
但しiMacの構造上内部拡張性は皆無ですから、周辺機器についてはFireWire/USBによる外部拡張に頼らざるを得ません。現在ではHDD×3、DVD×3、カードリーダ、ワンセグチューナ、ゲームコントローラ、サウンドユニット(+スピーカ)などが接続されています。それにしても最近のUSBインタフェースはずいぶん安定してるんですね。安心してどんどん増設することができます。

リッターロボット2009年04月07日 12時38分28秒

昨年の九月末くらいに猫様たちの新しいトイレを購入しました。リッターロボットといいまして、ぱっと見、レトロな火星人が時々地球の様子を見に来る時の乗り物にしか見えないような代物です。古いトイレ(リッターメイド)ももちろん全自動で排泄物を回収してくれる機能はあったのですが、なにぶん先走る機能性と現実の複雑さがせめぎ合い更なる混沌へとユーザを誘う結果となっていたため、心の平安を得るためには結局全手動で使わざるを得なかったという事情もあってこの手のトイレには懐疑的だったのですが、数ヶ月にも及ぶリサーチの結果おぼろげながらも手応えを感じ購入に踏み切りました。
猫様たちが新しいトイレに慣れてくれるまで一週間くらいかかりましたが、その後はおおむねスムーズにいっています。砂と排泄物を分離する動作はなるほどと思える合理性で、(リッターメイドなどの)線の動作からこの円の動作への転換の見事さには感心します。その他細かいところまでよく考えられていて、こびりつきにくく無駄な砂も消費しません。動作音はそれなりにしますし、猫の入室検知に使うステップ下のメカニカルスイッチの調整がデリケートで入り方によっては検知しない時もあるのと、高い位置から飛び出す格好になるので砂が散らばりやすいのがまあ難点といえば難点でしょうか。散らばりについては同時に買った砂取りマットである程度吸収できますが、スイッチ部分が上下するため砂をかいている間トイレ全体がガタガタと動くのがちょっと気になりますね。この部分(入室検知)は赤外線センサーとかじゃだめなんでしょうか。
現在使い始めてから半年経ちますが、以前に比べれば平穏な日々を過ごしています。毎日の排泄物の片付けは週二回の燃えるゴミの日に排泄物の溜まった袋を交換するだけになりましたし、猫様たちもいつも清潔なトイレが使えるようになりました。まあ気に入って使ってるのかどうかはわかりませんけど。
ちなみに猫砂は以前から使っているエバークリーンの細粒(芳香性か微香性)を入れています。今はラベンダーの香りってやつをお試し中。