騒音2009年04月02日 14時26分10秒

 猫が迷惑そうな顔をして天井を見上げている。やれやれ、またいつものやつだ。上の階から何やら床をドンドン踏み鳴らして走り回る音が聞こえてくる。小さな子供でもいるんだろうと思っていたが、変わらぬままもう七年以上が経っていた。
妻は「もう我慢できない。何とかしてよ」と言う。僕は「いやいや、集合住宅である限りある程度は仕方ないんだよ。僕たちだって下の家に同じくらいの迷惑をかけているかも知れないだろ。子供はいないけど猫たちが昼夜を問わず走り回ってるし」と言ってなだめる。
 妻だって直接苦情を言いに行ったりはしないだろうが、かなり苛立っている様子だ。もちろん文句を言ったところで何とかなる可能性はかなり低いだろうし、下手をすれば逆効果になりかねない。こういったところではお互いに関わり過ぎないことが美徳なのだ。
 こういうのはどうだろう。田舎のお土産でもいいし虎屋の羊羹でもいい。手土産を携え上の家を訪ねてこう言うのだ。
「ウチはいつもうるさくしてますので、こちらにご迷惑をおかけしてないか気になっていたんですよ。猫も走り回りますし、深夜までステレオを大きな音で聴いたりしてますのでね。一度こうやってお邪魔してお詫びを申し上げたかったんですよ。こういうことは相身互いですからね。いえ、ご迷惑さえおかけしてなければいいんですけども」
 ちょっと馬鹿げてるかな。悪くないような気もしたんだけど。

 ある日帰宅してエレベーターを待っていると、上の階から家族連れが乗り込んできた(一階にモニターがあるのだ)。家族連れはエレベーターから出てくるとそこで待っていた僕と軽く挨拶を交わし、エレベーターの中にいた時と同じ密度を保ちながら連れ立って外に出ていった。僕はふと思い立ち、その家族連れを追ってみることにした。別に今見た家族が件の上の階の住人たちであるとは限らないのだが。
 家族連れはマンションの正面玄関を出ると右側に回り、ゴミ捨て場に寄るとそこで何かを捨てたようだった。そしてさらにぐるりと回り、大きな通りに出た。僕は付かず離れず家族連れの後を追った。髭もじゃの大きな顔をした旦那さんと小柄な奥さん、品のよさそうなおばあちゃんと五歳くらいの男の子だ。子供は足を前後に動かさず横に少し拡げてそのまま前にジャンプして着地する、という方法のみで前に進んでいた。要するに体を硬直させピョンピョン飛び跳ねるようにして(いや、飛び跳ねて)歩いていたのだ。
 これはひょっとすると、と思いながら彼らの会話に耳をそばだてた。どうやらこれから食事をしてからカラオケにでも行くらしい。店まで付いていくかどうかで少し悩んでいた時、目の前の彼らは突然スッと広くて暗い場所に消えていった。通り過ぎて振り返ると、そこは有料駐車場だった。

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