2009年04月02日 14時20分42秒

 乾いた雪が窓を打つ――ちょうどそんな日に君は僕の部屋に居合わせた。

 え、雪の女神を知ってるかだって? さあ、今年の冬はまだ君以外にはそれらしい人に会ってないけどな。まあそんなことどうだっていいじゃない。今日はゆっくりしていけるんでしょ? 僕と一緒にいまや貴重なこの極寒の夜を楽しもうよ。それにしてもほんとに寒いよね。もっとこっちに寄ったら? ん? ああ、ユミのこと? うん、夏の間付き合ってたけど。でも何でユミのこと知ってるの? 勘って……恐ろしい勘だね。もちろんもう何とも思ってないさ。情熱的なところもあったけど、随分振り回されたからね。もうこりごりって感じ。やっぱり君みたいなクールな落ち着きがないとね、だめだよ。え、その前? ああ、もう全然、ってことはないけど、つまんない女ばっかりなんであんまり覚えてないんだよね。もう僕のことばっかり聞いてないでさ、君の話も聞かせてよ。これまでの経験とかさ。あ、僕そういうの全然気にならないほうだから。大丈夫だよ。安心してべらべら喋っちゃって。――本当? それ。僕が初めてなの? またまたそんな、そんなに可愛いのに? 信じらんないなあ。えっ、てことはその、経験的に言うと'まだ'ということに? ああ、そんな、神様、ご無体な、いえ感謝します、ありがとう。いやいやそんなことで舞い上がるような僕じゃないよ。大丈夫。安心して。よっしゃ、そういうことならそれなりにということでね。がんばらなきゃね。
 彼女がトイレに行っている間に僕は残りのコンドームを数えていた。
 ひい……ふう……みい……、ちょっと足んないかな。まあわかんないようにやっちゃえば何とかなるか。この寒いのに買いに出るわけにもいかないしな。
 気配に振り返ると彼女が立っていた。彼女の体は白くて艶やかな服なのか皮膚なのかよくわからないもので覆われていて、手を拡げたその先はひらひらと天井から折り返していた。彼女の白い髪から覗く赤い瞳が光った瞬間、僕の足元はぱっくりと割れて、一面に赤い溶岩が渦巻く地獄のような空間が拡がった。僕の体は叫び声と一緒にゆっくりとその中へ落ちてゆき、やがて雪が解けるように跡形もなく消えていった。

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