26番目の6月 ― 2008年06月15日 23時47分15秒
サヨコは水溜りを避けようとして小さくジャンプした後、前からきた自転車とぶつかってしまった。二人とも傘を差していてお互いが全く視界に入っていなかったのだ。そのまま沈んでいく小舟に乗り合わせてしまった二人のように顔を見合わせていた。水をかき出そうともせずにゆっくりと沈んでいくサヨコが見上げる薄暗い空には、黒い雲が渦を巻きながら今にも降りてきそうだった。
トオルの心は静寂の夢を叩き起こして、サヨコの目の前にその姿を現した。もたげた鎌首はうなだれることなく振り下ろされて、サヨコの湿った心を貫いていった。5回目の6月は忘れることなく訪れて、サヨコを本当にうんざりさせた。トオルはいつもと変わらずサヨコの心の中でうねりながら脈を打ち、迸る。サヨコは抗いながらも蕩けて流れ出す。そんな自分を呪いながら。
サヨコはいつも化粧をする洗面台に扇風機を置くことにした。暑い季節が近づくにつれて、化粧が崩れやすくなったからだ。洗面台の脇に据え付けてコンセントに差し、風が顔に当たるように上向きにしてからスイッチを入れた。小さな扇風機は大げさな振動と音を発しながら、サヨコの心まで乾かすような強い風を吹き出した。サヨコは目を閉じた。
その夜サヨコは風呂に入って体を隅々まで念入りに洗った。何故か今日は自分の体が愛おしく思えてしようがなかった。たおやかな腕を、くびれた腰を、柔らかな胸を、張り詰めた尻をいつまでも丹念に愛撫した。風呂から出るとゆっくりと丁寧に歯を磨き、デンタルフロスを全ての歯間に通していった。リビングにぴくりとも動かずにうずくまる猫を見て、サヨコは台所の灯りを消してからトオルの眠る寝室に向かって静かに歩いていった。
今サヨコは遥か遠い地に立つ。そこはかつて夢に見た場所であったはずだが、既に見たことのある場所だった。サヨコは一人立ち尽くし、通りすがる人に乞う。私を本当の私がいた場所に連れて行って欲しい、と。
http://bunshoujuku.asablo.jp/blog/2008/06/18/3583088
トオルの心は静寂の夢を叩き起こして、サヨコの目の前にその姿を現した。もたげた鎌首はうなだれることなく振り下ろされて、サヨコの湿った心を貫いていった。5回目の6月は忘れることなく訪れて、サヨコを本当にうんざりさせた。トオルはいつもと変わらずサヨコの心の中でうねりながら脈を打ち、迸る。サヨコは抗いながらも蕩けて流れ出す。そんな自分を呪いながら。
サヨコはいつも化粧をする洗面台に扇風機を置くことにした。暑い季節が近づくにつれて、化粧が崩れやすくなったからだ。洗面台の脇に据え付けてコンセントに差し、風が顔に当たるように上向きにしてからスイッチを入れた。小さな扇風機は大げさな振動と音を発しながら、サヨコの心まで乾かすような強い風を吹き出した。サヨコは目を閉じた。
その夜サヨコは風呂に入って体を隅々まで念入りに洗った。何故か今日は自分の体が愛おしく思えてしようがなかった。たおやかな腕を、くびれた腰を、柔らかな胸を、張り詰めた尻をいつまでも丹念に愛撫した。風呂から出るとゆっくりと丁寧に歯を磨き、デンタルフロスを全ての歯間に通していった。リビングにぴくりとも動かずにうずくまる猫を見て、サヨコは台所の灯りを消してからトオルの眠る寝室に向かって静かに歩いていった。
今サヨコは遥か遠い地に立つ。そこはかつて夢に見た場所であったはずだが、既に見たことのある場所だった。サヨコは一人立ち尽くし、通りすがる人に乞う。私を本当の私がいた場所に連れて行って欲しい、と。
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