愛したい2006年07月16日 22時39分10秒

 彼女とは中学三年生の時同じクラスだった。華奢で浅黒く白い目と歯だけが目立つ、ショートカットのボーイッシュな女の子だった。
 家が近かったので一緒に帰ったりすることもあったが、もちろん付き合っていたわけではない。ただ、片えくぼを僕に向けて、はにかみながら喋る口元の残像は、僕の頭の片隅に消えることなく焼き付いていた。
 僕は近くの高校には進まず、百キロほど離れた全寮制の高校に入った。そして一年後に開かれた同窓会で、彼女と再会した。
 彼女は以前より少しふっくらとした印象で、どこかコケティッシュな魅力を身に付けていた。
 結局僕たちは何となく付き合うようになり、距離は離れていたが、手紙をやり取りし、たまに会ってデートをした。僕は柔らかな輝きに包まれた日々を、目を細め身を屈めるようにして過ごした。
 そんなある日、同じ中学出身の友達同士で集まっていた時、どうやら彼女は他の高校の先輩と付き合っているらしいという話を聞いてしまった。確かお前も付き合ってるんだよな、と冷やかされ、居ても立ってもいられなくなった。

 彼女は僕の部屋でカーペンターズを聴きながら、あっさりと浮気を認めてみせた後、悪びれる風もなく言った。
「でも、そんなことどうだっていいじゃない。私があなたのこと好きなのは確かなんだし。それに他の男は体ばっかで、頭は全然空っぽなんだからつまんないよ。私の気持ちを埋められるのは、あなたしかいないんだから――」
 そして僕ににじり寄ると、ズボンのベルトに手をかけた。
「あなたを愛したいの。いいでしょ?」と大きな目で上目遣いに僕を見ながら言うと、やがて彼女はゆっくりと顔を沈めていった――。

 ――僕は愛に身を震わせながら、白い夢の中にいた。
 彼女は市松模様のフロアで誰かとダンスを踊っていたが、その瞳は深い哀しみを湛えていた。雨も降っていないのに何故か傘を差したまま佇んでいた僕は、怖さと恥ずかしさで俯くことしかできなかった。

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