Baby, The Stars Shine Bright.2006年08月01日 00時51分02秒

 朝の生暖かく毛羽だった空気の中、僕は彼女の家を目指して車を走らせた。
 カーステレオのボリュームを上げて、窓を全開にすると、車ははやる心を乗せたまま、きらきらと輝き始めた宇宙へと滑り出していった。
 家の前に立っていた彼女は、体の横で小さく手を振りながら駆け寄ってきて、助手席のドアを開けると、僕を見て「よっ」と言いながら体を滑り込ませた。

 真昼の太陽は透明なナイフのように、並木道の街路樹をすり抜けて、僕たちの足下に突き刺さった。
「あのさ……」
「ん?」彼女は目を細めアヒルのような口をして、斜めに僕を見上げた。
「イチョウの葉ってね、もともと二枚だった葉がくっついて一枚になったのか、それとも一つだったのが分かれて二つになったのか、どっちだと思う?」
 僕は昔読んだゲーテか何かを思い出しながら、彼女に訊いた。
「……黄葉もまだなのに……ちょっと季節外れよね」
 僕は鋭い木漏れ日に目を射抜かれて、くらくらした。

「――お待たせ」
 振り返るとそこには、白地に藍染めの浴衣を着て髪を上げた彼女が、両手で袖をぴんと張りながら立っていた。
 僕たちは車を降りると駐車場からしばらく歩いて、町の中心を流れる川のほとりを目指した。そして大きな橋の欄干に陣取り、河原を見下ろしながら、何千発もの花火が轟きながら夜空に花開くのを、大勢の見物客に紛れて二人で見上げていた。
 彼女が僕の耳元で大声で何か叫んでいたが、よく聞き取れなかった。僕が何度もうなずいてみせると、彼女はにっこりと笑って、僕の足を蹴飛ばした。

 花火も終わり、徐々に熱気も人影も減っていき、やがて静まりかえった橋の上で、僕たちはずっと欄干にもたれ、夜空を眺めていた。
 燃え残りくすぶり続ける花火のように、空には無数の星が瞬いていた。それはしんしんという音とともにますます輝きを増しながら、夜空を覆い尽くそうとしているように見えた。
 僕は彼女の胸元やお尻のラインを盗み見ては、こみ上げてくるものを必死で押さえていたが、ふと彼女の瞳の中に夜空と同じ数の星が爛々と輝いているのを見て取ると、思わず息を止め体を堅くした。
「そろそろ帰りますか――見てばっかりでもつまらないでしょ?――送ってってくださる?」と彼女は冗談めかしてあごに手を当てながら顔を反らし、僕を見下ろすように言った。

コメント

_ くれび ― 2006年08月01日 01時20分11秒

真夏の話を書いてみたかったのと、鹿王院さんの浴衣姿に萌えた結果、出来たお話です。あ、トラックバックしとこうかな?

それにしても「真夏の雪景色」はないよなぁ……。

_ きのめ@匿名のつもり ― 2006年08月02日 16時30分43秒

いつも、さらりと書きますね。ため息が出ます。

そうですよねぇ、「真夏の雪景色」はないよね。もうひとつだって、ねぇ。
こんなお題出すやつ、みんなの嫌われ者さっ。・・・(暗

_ くれび ― 2006年08月03日 00時24分02秒

>木の目さん……で…すよね
私は木の目的大作を書いているわけではありませんから、こんな思いつき一発で書くようなヘンテコなお話くらいは、さらりと書かせてもらえないと恥ずかしいじゃないですか。

第10回課題発表記事を読んで、私は今年一番の絶望感にむせび泣きました。
でも実はもう候補作一本目は書き上げちゃったのだ。(なんだ書けてるじゃん。出来はともかく)

#鹿王院日記にトラックバックしたつもりなんだけど、気づかれてないか、どうやらスパムとみなされて削除された気配濃厚。うーん、どうしよう。

#ちなみにこのキザな作品タイトルはEverything But The Girlのアルバムタイトルから拝借してきました。私的には夏のイメージだったもんで。

_ 木の目 ― 2006年08月03日 08時21分37秒

おせっかいだと思ったんですが、ろくこさんの記事にコメント入れておいたから、たぶん読んでると思います。
すごいテレ屋で考え込むタイプだから、2,3日経ってからかな。

_ 百吉 ― 2006年08月03日 09時48分00秒

ろくこさんとこから木の目さんに誘われて見にきました。
わ、なんですか。すごくいいじゃないですか。
なんだかオシャレだなあ。
イチョウの話がいい。
時々こっそり読ませていただいています。
いたずらにゃんこのお話が笑えました。
ねこつながりということで、ひとつよろしくお願いします。

_ くれび ― 2006年08月03日 21時03分52秒

>木の目さん
どうもありがとうございます。お手数をおかけしました。
私もすごおっくテレ屋なもので、どうしようかと思っていたところです。

>百吉さん
どうもありがとうございます。
百吉ちゃん、見てますよ。
実はうちにはもう一匹生息していて、そっちは白黒なんですよ。それでね…って、書き出すと止まらないから、やめとこ。
やつらのことはまた改めて機会があったら書きたいと思います。

_ ろくこ ― 2006年08月06日 07時39分49秒

くれびさんへ

ごめんなさいね~

ちょっと留守にしていたので
書き込む時間がなかったのと
基本的にトラックバックは受付ない事にしているのです
と、いうのは、エロサイトのトラックバックがやたら
入るのですよ

浴衣の写真の思わぬ効果があって
嬉しい限りです
あのお粗末な写真でこんな素敵な作品が
かけるなら
また載せます!わはは

でも、文章塾の人って面白いね
みなさん浴衣が好きみたい
想像力が豊かだから書きたてられるものが
あるのでしょうね

なぎささんとくれびさんは
浴衣好き(めもめも

くれびさんは浴衣着ないのですか?
男の人の浴衣姿、好きですよ~~

_ くれび ― 2006年08月06日 18時11分31秒

>ろくこさん
どもです。
「鹿王院日記」のトラックバックは今「受け付けない」設定じゃなくて、「チェック後公開」設定になってますよね? だからチェックでエロサイトとみなされて削除されたのだと思ってました。
確かにここはエロサイトだろうといわれれば、否定しきれないような気もするので何もいえませんでした。

ろくこさんの浴衣姿は思わずストーリーが浮かぶくらい素晴らしかったですよ。
浴衣って男のリビドーを刺激する美しさに満ちてますよね。女の人も男の浴衣姿にそんなことを感じたりするのかな? だったら一度着てみたい気も。なんちゃって。

_ ろくこ ― 2006年08月06日 20時09分47秒

そうそう
そうでした、チェック後公開
でも、チェックしてなかったんです
通知とかないんですね
だから全然気がつかなかったんです
ごめんなさいね

そうかぁ
浴衣は男の人好きなんですね
これはメモメモ
あ~~~、もうちょっと若いときに知っていればなぁ!!

私は男の人の着物姿、大好きです
思わずついていってしまいます
(やばい?)
みんな浴衣着たらいいのにね!

大人の男の人の浴衣姿
いいですね~~

_ 鉛筆カミカミ ― 2006年08月08日 03時02分44秒

どうもお初です。
そうか女の人は男の着物が好きなのか(メモカキメモカキ)(しかしろくこさんだけかもだぞ、めもめも)
着物なんて一着も持ってませんよ。
くれびさん、持ってます?

さて感想。
百吉さんも仰ってますが、お洒落!
それだけでもここに読みに来た甲斐があるってほどのものです。

>ふと彼女の瞳の中に夜空と同じ数の星が爛々と輝いているのを見て取ると、思わず息を止め体を堅くした。

で、お洒落な中にこんな純な一面が見れて、得得得っとな。
でも最後はおっとこでーす。な終わり方。
いいですよ。うん。
またなんか書いてくださいね。読みにきます。
あ、よかったら僕のブログの方にもなんか色々ゴテゴテと置いてあるので、お時間のある時に観に来て下さい。
では。

_ くれび ― 2006年08月10日 00時51分56秒

めくるめくろくこさんの浴衣ワールドにどっぷりひたっちゃいましたね。本当に機会があれば浴衣着てみたくなりました。

>ろくこさん
そうかぁ、通知は来ないですもんね。わかんないですよね。かといってトラックバックしたい内容をコメントするのは厚かましい感じもするし、自分のとこだけにひっそりと書くのも何だかいじけてるみたいだし、うーん、悩んじゃう。

>鉛筆カミカミさん
うぉっ、いらっしゃい。いつもお世話になってます。
読んでもらってありがとうございます。
ブログも時々見させてもらってますけど、ちょっと立派すぎて気後れしちゃいます。

_ 木の目 ― 2006年08月10日 08時18分18秒

”自分のとこだけにひっそりと書くのも何だかいじけてるみたいだし、うーん、悩んじゃう。”

この窪みは、文章塾の誰か彼か見ているので、コメント独白でもどこかにはつながります。
それも、けっこう怖いことではありますが(笑

_ くれび ― 2006年08月10日 16時13分54秒

うーん、そうなんですかねぇ。
目立たない窪みなので、とにかくのろしをあげたり、矢をうちこんだりしなきゃいけないような気がしてました。
みんなぁ、見守っててね。

_ ろくこ ― 2006年08月14日 21時50分45秒

はい
見守ります!

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