掲示板(2006年06月~)2006年06月14日 00時14分12秒

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Eclipse-32006年06月14日 15時06分31秒

 ――静かな夜だった。浜辺には遠慮がちにひたひたと波が打ち寄せ、透明な月からは滲むような月明かりが四方に拡がっていた。生温く湿った風が砂浜を渡り、ひんやりとした砂地が深く私の足をすくった。
 あれからもう二週間が経ったなんて信じられなかった。
 大げさではなく彼は私の全てだった。彼の笑顔に私は揺らめき、彼の体に私はとろけた。
 この前は昼間彼と来た。二人だけの秘密の小さな入り江の畔で、抱き合って寝ころんだ。

「あのさ……」少し開いた彼の口から白い歯がのぞいた。
「なんで俺たちは今この世界の中で、ここにこうやって二人で居るんだと思う?」
 さあ、わからない、と私は答えた。
「それはさ、俺たちは今までも、そしてこれからだって、ずっと一緒にここに居るからだよ」
 わからない、ともう一度私が言うと、彼は笑った。そして手をかざして目を細めながら地平線をなぞった。
 しばらくして彼は海でヨットが転覆する事故にあい、遺体すらあがらなかった――。

 ――コツンと私の足に何かが当たった。それは小さなガラス瓶で、月明かりに透かして見ると、茶色のガラス越しに干からびたグリーンピースのような粒がいくつも入っていた。
 私は入り江に着くと、その瓶の中身をあたりの砂浜に撒き散らした。すると地面からたくさんの細い茎がするすると伸び始め、やがて葉を付けると、その先端には夜顔とも百合ともつかない白い花が咲いた。数え切れないほどの花が、月の光を浴びてきらきらと揺らめいていた。
 私は着ている物を脱いで、花たちに囲まれるようにして砂の上にそっと横たわった。そうしていると、何故か彼の気配がすぐそこにあるように感じられ、私の体は彼の腕に抱かれて、彼の手が私の髪を優しく撫でていた。彼と私は確かにここに居て、今まで感じたことのないほど、私は彼に愛されていたのだ。
 白い花びらからは、止めどなく透明なつゆが溢れ出し、それは葉や茎をだらだらと伝って砂に染みこんでいった。