神々のダンス ― 2006年06月01日 16時31分42秒
とうに日は落ちてもう夜も九時を回った頃だろうか。物見台の鐘がカーン、カーンとゆっくりと何度も打ち鳴らされると、三々五々彼方此方から村人たちが集まってくる。濃紺の空には抜けるほど白い月が浮かび、熱く湿った柔らかい地面をぼんやりと照らしている。村の中心には村人が心寄せる寺があり、その前には八十メートル四方程の広場があった。
底なしの井戸に巨大な鈴を投げ入れたような音色の金属製の楽器が奏でる音楽に乗って、極彩色の衣装を纏った女たちが指先にまで神経を漲らせゆっくりと体をくねらせながら踊っている。その傍らでは僧侶たちが並んで座り、粛粛と読経を続けている。布を羽織り紅白の綱で引かれた牛を先頭に、白く大きな頭巾達が何ごとか呟きながらぞろぞろと巡り歩いている。裸の男たちは目を見開き体を引きつらせ、太鼓の皮の震えに弾け飛ぶように踊っている。急ごしらえの祭壇には生贄が捧げられ、老人達が嵐に舞う稲穂のように祈りを扇いでいる。人形使いは倒木の陰に身を潜め、何体もの人形を操りながら神と悪魔の戦いを演じている。観衆は皆どこかに抜け出してしまった己の魂に焦がれるように、虚ろで燃えるような目をして見入っていた。
それらはあたかも曼荼羅のようでもあり地獄絵のようでもあったが、こうして村人たちはこの世の宇宙から天界と魔界を行き来し、未来や過去と交信する。神と一体化し、自分たちの居場所を確認して、魂を浄化させ、安息を得る。彼らは今いるこの世界が知恵の輪のようにねじれながらあらゆる世界と繋がっていることを知っているのだ。
――松明の炎に揺らめく熱、蠢く指先、生贄から滴る血、頭巾から覗く充血した目、歪む老婆の口、牙を剥く悪魔、もたつく牛の蹄、朗々と響く読経の声、零れ落ちる涙、闇に染み込む久遠の音色、黒く切り抜かれた寺の影、青く霞んだ月……そしてそれは夜半過ぎまで途絶えることなく続くのだった。
http://mayu-kids.asablo.jp/blog/2006/04/16/329418
底なしの井戸に巨大な鈴を投げ入れたような音色の金属製の楽器が奏でる音楽に乗って、極彩色の衣装を纏った女たちが指先にまで神経を漲らせゆっくりと体をくねらせながら踊っている。その傍らでは僧侶たちが並んで座り、粛粛と読経を続けている。布を羽織り紅白の綱で引かれた牛を先頭に、白く大きな頭巾達が何ごとか呟きながらぞろぞろと巡り歩いている。裸の男たちは目を見開き体を引きつらせ、太鼓の皮の震えに弾け飛ぶように踊っている。急ごしらえの祭壇には生贄が捧げられ、老人達が嵐に舞う稲穂のように祈りを扇いでいる。人形使いは倒木の陰に身を潜め、何体もの人形を操りながら神と悪魔の戦いを演じている。観衆は皆どこかに抜け出してしまった己の魂に焦がれるように、虚ろで燃えるような目をして見入っていた。
それらはあたかも曼荼羅のようでもあり地獄絵のようでもあったが、こうして村人たちはこの世の宇宙から天界と魔界を行き来し、未来や過去と交信する。神と一体化し、自分たちの居場所を確認して、魂を浄化させ、安息を得る。彼らは今いるこの世界が知恵の輪のようにねじれながらあらゆる世界と繋がっていることを知っているのだ。
――松明の炎に揺らめく熱、蠢く指先、生贄から滴る血、頭巾から覗く充血した目、歪む老婆の口、牙を剥く悪魔、もたつく牛の蹄、朗々と響く読経の声、零れ落ちる涙、闇に染み込む久遠の音色、黒く切り抜かれた寺の影、青く霞んだ月……そしてそれは夜半過ぎまで途絶えることなく続くのだった。
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