桜 ― 2006年06月01日 16時33分09秒
夜の公園には満開の桜が街灯の光に色づきながら、真っ黒な空を覆い尽くすように群れをなして広がっていた。
僕はミニチュアの天文台のドームを二つ組み合わせたような不思議な形をしたオブジェに備え付けられたベンチに座って、桜を見上げていた。
シートはメッシュのスチール板で出来ていて、お尻は冷たくひんやりとした。周りはカプセル状に外界と遮断されていて、まるで冷たく硬い繭の中に閉ざされた蛹のような気分になった。
僕は朝いつもと同じように家を出て会社のある駅で降り、夜いつもと同じように自宅近くの駅まで戻ってきたが、会社には行かなかったし、まだ家にも帰っていなかった。
会社近くの裏通りに入ると骨董屋のような店構えの雑貨店を見つけ、白鳥の形をしたバナナスタンドを買おうと思ったが、かさばるので諦めた。
街を行き交う人たちは、皆それぞれの人生の秒針の上で踊るように正確でせわしげだったが、ヘッドホンステレオのレ・リタ・ミツコはそんな風景をゴダールの映画のシーンのように僕に見せてくれた。
もう既に零時を回っているはずだが、公園の中は夜桜見物をする人達や、ジョギングをする人、肩を寄せ合うカップル、犬の散歩をしている人などで溢れかえっていた。
僕はこの繭の中からずっと桜を見上げ、降り注ぐ淡い光に目を細めていた。頭の中からエミリー・シモンが甘く切なく僕に歌いかけると、光が滲んで溶けだし桜もふわりとぼやけた。
公園の周りにある街灯に照らされた遊歩道の向こうから、若い男女がバレエのステップを踏むように歩いてきた。男は急に女の足を止め、女はしなをつくって男の顔を見上げた。男は女の腕を掴んで公園をバックに立たせると、女の写真を撮った。フラッシュがあたりにこだまし、世界中から祝福を受けたような女の顔が薄暗い空気の中にポッと浮かび上がった。
僕は両耳からイヤホンを外すとさっきまで見ていた桜を振り返り、そっと瞼でシャッターを切った。
http://mayu-kids.asablo.jp/blog/2006/04/16/329426
僕はミニチュアの天文台のドームを二つ組み合わせたような不思議な形をしたオブジェに備え付けられたベンチに座って、桜を見上げていた。
シートはメッシュのスチール板で出来ていて、お尻は冷たくひんやりとした。周りはカプセル状に外界と遮断されていて、まるで冷たく硬い繭の中に閉ざされた蛹のような気分になった。
僕は朝いつもと同じように家を出て会社のある駅で降り、夜いつもと同じように自宅近くの駅まで戻ってきたが、会社には行かなかったし、まだ家にも帰っていなかった。
会社近くの裏通りに入ると骨董屋のような店構えの雑貨店を見つけ、白鳥の形をしたバナナスタンドを買おうと思ったが、かさばるので諦めた。
街を行き交う人たちは、皆それぞれの人生の秒針の上で踊るように正確でせわしげだったが、ヘッドホンステレオのレ・リタ・ミツコはそんな風景をゴダールの映画のシーンのように僕に見せてくれた。
もう既に零時を回っているはずだが、公園の中は夜桜見物をする人達や、ジョギングをする人、肩を寄せ合うカップル、犬の散歩をしている人などで溢れかえっていた。
僕はこの繭の中からずっと桜を見上げ、降り注ぐ淡い光に目を細めていた。頭の中からエミリー・シモンが甘く切なく僕に歌いかけると、光が滲んで溶けだし桜もふわりとぼやけた。
公園の周りにある街灯に照らされた遊歩道の向こうから、若い男女がバレエのステップを踏むように歩いてきた。男は急に女の足を止め、女はしなをつくって男の顔を見上げた。男は女の腕を掴んで公園をバックに立たせると、女の写真を撮った。フラッシュがあたりにこだまし、世界中から祝福を受けたような女の顔が薄暗い空気の中にポッと浮かび上がった。
僕は両耳からイヤホンを外すとさっきまで見ていた桜を振り返り、そっと瞼でシャッターを切った。
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