Eclipse-12006年06月03日 11時17分59秒

 アツコは僕の唇からそっとそのめくれ上がった柔らかい唇を離すと、「まだまだだねぇ」と言って悪戯っぽく笑った。そして動きを止めて黙りこくった僕をしばらく見ていたが、もう帰る、と言って下宿の一階の僕の部屋の窓から、白みはじめたその向こう側に降り立った。
 アツコは窓の外に立ったまま「ごめんね」と言って泣いていたようだったが、僕が窓に目をやらないのを見てとるとそのままスッと姿を消した。
 僕はマイルスを聴きながら、そのまま布団の中で眠ってしまった――。

 ――そこは同じように僕の部屋のようだったが、夜なのに電気も点いておらず、窓越しに差し込む青い月明かりがゼリーのように部屋の中を満たしていた。部屋の中を見回すと五、六人の男女がざこ寝をしているようだった。恐らくバイト仲間で飲みに行った後、ここまで帰ってきてみんなで寝てしまったのだろう。
 僕はひどく喉が渇いていたが、台所に行くのも億劫なくらい頭痛もしていた。僕は救いを求めるように寝返りを打ち、窓の方に向き直った。
 すると目の前に、窓の下にもたれて頭を近づけキスをしている二人の影があった。
 僕はしばらくの間ぼんやりと、揺らめくその影を眺めていた。一人はタツヤという遊び慣れている粗野だが気のいい男で、もう一人はアツコだった。
 アツコはタツヤにしなだれかかり、そのぷっくりとした唇からタツヤに命を吹き込まれているかのようにキスを貪っていた。
 次第に月はその明るさを失い始め、部屋の中はみるみる暗くなっていった。アツコとタツヤの影も周りの闇に溶け出しながら、徐々にその輪郭を失っていった。
 僕は隣に寝ていた女の子の体に手を伸ばすと、静かにそして激しくまさぐり始めた。柔らかく熱く深い女の体に僕はのめり込み、溺れ落ちた。そんな僕を暗闇の向こうから二人が笑いながら見ていた。
 女の喘ぎ声に巻き込まれたその時、僕は遙か頭上の銀河に浮かぶ小さな星がキラリと瞬くのを感じた。

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